ひぐらし1991年



ホームページ作成日付1998年8月11日

ご復活の歌

大晦日の歌




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ご復活の歌


’91 遅まさながらの御復活の歌




 京都からの遅帰りのこと。車内から乗客が 停車ごとに少なくなり始めた。
うとうとして いたほろ酔いの男がほとんど。
電車は夜に向 けて前進していて、両側の窓が外の田舎の点 々としている明かりをお互いに反射していた。
しかし、その晩、何故とはなしに、乗客に も窓の上での反射にも目を配らず、ただ夜だ けを眺めていた(、深くてやさしい夜を、膨大 な真っ暗。ありふれたその風景は、その時僕 を魅了していた。
 「桃山御陵前・・・大久保・・・」。電車 は夜に向けて前進を続けていたぐ、で僕は何世 紀も続けていた電気の無い昔を思いめぐらし ていた。
地球の半分、時間の半分、人生の半 分はその真っ暗な夜の中だった。
恐い思いと 言っても親しい友人に久々に会うような気が した。僕を引き込みそうな深くてやさしい夜 。
若い時、夜っぴて山を歩いたことがふと記 憶に戻った。
朝4時頃、曙の最初の兆しを今 か今かと待っていた。胸の痛むほどに。
「新田辺・・・高の原・・・」。
電車は夜に向けてまだ前進。
地球の半分、人生の半分、僕の魂の半分は深くてやさしいこの夜の暗 闇に。
脅えと不安が生む幻想は、皆まるで心 安い見えざる誰かに払いのけられたようだっ た。
我が師フランシスコ---- 夜、そして夜 と似ている死を姉妹と呼んで歌った彼 ---- を思い出して、では僕も夜の暗闇を歌ってみ ようとした。
 電車が西大寺に着いて僕は帰り道を登った 。そして暗闇の中点々としていた明かりが、 歌っている自分の前にある大きなローソクの ように見えた。夜は僕の姉妹になってきたの だ。




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